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【 VOL.21】 なるほど。  
     
 
 

守りたい。
 
なるほど。

梅雨の間、雨が降ったり、どんよりした曇り空が続く中、時折顔を出す富士山の「農鳥」はその度に小さくなって、今や「点」となっている。

「農鳥」とは、4月の中旬頃に富士山に現れる、残雪でできた鳥に似た形の事だ。農作業を始める頃に現れるから「農鳥」と言われている。
白鳥にしてはやや首が短く、アヒルにしては長い、その形は真っ白な紙を切り取って貼ったかのように、鮮やかにすっきりと現れる。

この地に住み始めた頃、人から「農鳥」の話を聞いた私は、河口湖から見て富士山の真ん中よりやや右手に鮮やかに見える「本物」に全く気づかず、左手に本物の10倍もあるような、白い雪ではなく雪の流れた土の部分で形を描く大きな鳥の姿を見ていた。
その私の「思い込みの農鳥」は、絵の下手な大人が一生懸命、写実的に描こうとしたような、雀ともヒバリとも判らない鳥である。
最初の2、3年は、それを農鳥と信じて疑わず、春の訪れと共に山肌にその姿を確認していた。
この勘違いが修正された後の今でも、春になると「本物」と一緒にその「思い込みの農鳥」も相変わらず浮かび上がって見えてしまう。

この、雪や雲やシミが何の形に見えるかで、例のロールシャッハテストのように、人の深層心理や好みが浮かび出てくるのではないだろうか。
スッキリした単純なデザインの本物の農鳥に気づかず、あえてヘタクソな鳥の絵を富士の山肌に見ようとする私は、洗練されたものより、どこか隙のある人の手の臭いの残るモノが好きだ。


この春から新たに私の地域の宅配担当となった生協の青年がいる。
彼の仕事ぶりはとても真面目だが、『生活協同組合』という名前とよく似合っていた今までの青年達と違い、ロン毛を後ろで一つに縛り野球帽を後ろ前にかぶっていて、これでピアスでもして服装をちょこっと変えれば、街をぶらつくヤンキーな兄ちゃんとさして変わらない。
今年の農鳥のニュースが出た頃、彼が宅配の荷物を仕分けしながら「農鳥って、どれの事っスかねぇ?」と尋ねてきた。
宅配の車の背後に見えてる富士山の実物を指差して「正面右手に見える数字の2に似た形の、あれだよ。」と教えた。
すると彼は「あぁ、あれのことっスかぁ?」と呆れたように言い、続けて「俺に言わすと、あれはヘビっスねぇ、とぐろ巻いたヘビ。」と、さらりと言い放った。

「えぇっ?」と一瞬ひどく驚いたが、『生協』と彼のミスマッチに比べ彼とヘビのイメージは余りにもマッチしていた。
『なるほどなぁ』
納得がストンと胸に収まると、彼の深層心理にも好みにも興味はそこまでで、それ以上先を探ってみようとは決して思わなかった。
2011.7.15
追分 めぐみ
 
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