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【 VOL.38】 オバサンのほくそ笑み  
     
 
 

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オバサンのほくそ笑み

2月初旬 よくよく晴れた風もないある日。
河口湖畔に向かって自転車を引いて歩いていた。
さっきから涙がじゅるじゅるあふれてくる。
河口湖大橋を渡る時には涙は流れっぱなしだった。
哀しい、痛たい。 いいや、冷たい。 空気が、冷たい。
横を通り過ぎてゆくのはここを通りなれた地元の車だろうか、他府県の観光客の車だろうか。 
この車の中に私を泣かせるこの空気、そして『音』がある事を知っている人はどれぐらいいるのだろう。

大橋の上で立ち止まると夕暮れ時にねぐらの大木に集まる雀たちのような、たくさんの小鳥がさえずりあっている声が聞こえてきた。
しかし、遥かむこうまで周囲を見回してみても、湖にそれらしき鳥の群れは見つからない。
鴨たちは冷たい(であろう)水におとなしく浮かんでいる。
それにしても、なんてか細く、高く、恐ろしく大勢の声なんだろう。
カタカナで書いてみれば「シャルシャルシャル」「シュリシュリシュリ」
小さく微かな声がいくつもいくつも重なって大合唱となって橋の下からせり上がってくる。
湖面をよく見てみると陸の周囲から張った氷が迫ってきている間に、まだ凍らないで水が揺らいで流れている箇所があった。
張った氷は割れたり凍ったりを繰り返すのだろう、みごとなパッチワーク模様を作り出している。
揺らぐ水がぶつかる所には小さく砕けた細かい細かい氷が集まっていた。
 「おおおお」 思わず声が出た。
この小さな小さな氷たちが広く張った氷にぶつかっては揺らいでる、そのぶつかる音こそがこの「声」の正体だったのだ。

 「ちょっと、ちょっと!ちょっと!」 
オバサンは教えてあげたい。 そこの君に教えてあげたい。
何も知らず通り過ぎる車を止め、この澄み切った大合唱を教えてあげたい!

その時、涙が流れっぱなしの目を剥いて「おおおお」と吠えながら車を止めようとしている自分の姿が鏡に映ったかのように目に浮かんできた。

『優しい気持ち』は一瞬で消え「ふん!」と精一杯ほくそ笑んだのだ。


2012.3.30
追分 めぐみ
 
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