追分めぐみ   サイトマップ  
exhibition message essay gallery contactus shop
展示会情報

 
【 VOL.40】 「ごめんなさい」  
     
 
 

 
「ごめんなさい」

「そりゃあ、やっぱり泡盛でしょう。」
電話の相手に沖縄のお土産に何が良いと聞かれて即、そう返事したのだ。
「ふっ。」 短い笑い声が携帯をきった私の耳に入ってきた。
本当に小さな短い声であったのに、その中には明らかに人をバカにした臭いがやけに濃く詰まっていた。
『なんなんだ?』
続けてなんか言ってきたら、行儀の良い酔っぱらいの振りをして冗談まじりの皮肉でも言ってやろうかと思っていたが、タクシーのその運転手は後は何も言わず黙って車を走らせ続けた。
行き先と指定したS神社前に着いた。「カードも使えるでしょう?」と聞くと笑いを含んだ声で諭すように「はいはい、使えますよぉぉ」と言う。
『いったい、なんなんだ?』
何かがひっかかる。酔ってぼんやりした頭をわざとらしく左右にふり片足を外に踏み出そうとしたその時、開いていたドアが再びゆっくりと閉まった。
「お客さん、困りますねえ、こんな事をされちゃあ、、」 「えっ?」
運転手の手を見ると握られてるカードは真っ白だった。まっしろ。
『何がどうなってるのだ?』
あわてて財布の中身を探してみるのだが出てくるのはどこのか分からぬポイントカードだったり名刺だったり、やっと見つかったと思ったカードは私の手の中でどれもたちまち白くなってゆく。
気がつけば車は既に再び発車して夜更けの灯りの無い道を走っている。
「とりあえず一緒に行ってもらいましょう。」運転手が言った。
『一緒にって? どこに?』
寒いのか怖いのか、肩から首の辺りがガクガクしてくる。
とにかく運転手の顔を確かめようとするのだが、何故かそれができない。
運転席が白い霧で包まれてるかの様に感じる、感じるが白い霧はない。
頭の中は痺れてどんどんまっしろになっていく、きしんでいく。
どうやら自分は単純だが明らかな犯罪を犯したらしいのだが、何をどうしたのか具体的な事はさっぱり分からないままだった。
運転手は無言のまま、車は暗闇をひたすら進んでゆく。
何も分からぬままなのに私は「ごめんなさい、ごめんなさい」と小さな声で震えながら呟き続けた。


最近、テレビで老人の万引き報道をよく見る。
カメラで万引きの行われる一部始終を写した後、万引きハンターといわれる人が犯人である老人を現行犯で捕まえて事務所に連れてゆく。
子や孫ほど年のはなれた店長やハンターからボロクソに叱られる年寄り。
その姿に、どうして万引きをしそうと気づいたその時点で注意してそれを止めてやる事はできないのかと胸にさび釘を打たれたような痛みが走る。

「ごめんなさい」と繰り返しあやまる年寄りがとても他人と思えない。


2012.4.30
追分 めぐみ
 
preview List next
 
CSE YOUSEE VERASHOP
COPYRIGHT Creative System Engineering Co., Ltd. ALL RIGHTS RESERVED.