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【 VOL.41】 一年生  
     
 
 

桜の降る街
 
一年生

まるでランドセルから直接手足が生えているみたい。
後ろから人差し指のたった一本で「くいっ」と引っ張れば、そのまま仰向けに転んでランドセルの中に手も足も頭も入れてゴロンゴロンしそうだ。
4月に入ってやたら目につく黄色い帽子の新一年生は、地球の重力にまだ慣れきってない異星人みたいに自分の重さを量るように歩いてる。

4月中旬のある日、河口湖駅発8時10分の新宿行きのバスに乗った。 
バスが駅を出てすぐだった。
駅前の狭い道の反対車線と歩道との間の縁石の上を黄色いランドセルの黄色い帽子の女の子がバランスをとるようにヒョコヒョコ歩いていた。
普通の道でも不安定な歩き方なのに大きいバスもすれすれ横を通る縁石の上をひとりニコニコしながら歩いている。
『アシモ』よりよっぽど危なっかしい歩き方のその子を指でつまんで手のひらに乗せ、歩道にそっと戻してやりたい。
「あぶないよ」と声かけたいがそれもできず、顔をバスの窓ガラスにくっつけて息を詰めるようにして見つめた。
その時、女の子が少しバランスを崩した。
同時に対向車が視線を遮った。
思わず「ぎゃっ」と声が出てしまった。
1秒後、少し後方に再び現れた女の子はバランスを崩す前と全く同じ様子で縁石の上をヒョコヒョコ歩き続けていた。
後からすれ違ったバスが軽くクラクションを鳴らすのが聞こえた。

めったに無い事とはいえ、あの「ぐらり」の瞬間に事故にあってしまう子もいるだろう。
だからといって、あの幸せなニコニコ顔の「一人歩き」にはむやみに取りあげてはいけない大切なものがぎゅっと詰まっている気がする。

何歳になっても、どんな暮らしをしていても危険はいつもそこにある。
天から眺めれば、私だって未だにわざわざ危険箇所に近づいたり無駄に遠回りをして不器用に歩き続けている一年生に見えるのじゃないだろうか。

そういえば、天から時々「ぎゃっ」という声が聞こえていた気がする。


2012.5.15
追分 めぐみ
 
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