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【 VOL.46】 ファウスト?  
     
 
 

夏の実
 
ファウスト?

子供の頃、雷が大好きだった。
雷が鳴り始めると雨が吹き込むのを気にしながらもガラス戸を開け、雨の降る姿や稲光を打ち上げ花火を見るかのように眺め続けた。

そんな私でも、ここでの雷は窓に近づくのも怯むほど恐ろしい。
地鳴りのように深く遠い所から長々と響かせて近づいて来る不吉な音。
それはまるで、くどくどと長ったらしい苦痛に満ちた物語の始まりの合図のようだ。
姿を見せぬまま意外な速さで真上に来た雷が、いきなり落ちた時には育った街では聞いたこともない何百歳の大木を割いてしまうようなとてつもない音を響かせる。

ずっと以前、テレビに雷に打たれた後、過去の1日1日の天気を全てするすると頭から引き出せるようになったというアメリカ人が出ていた。
「◯年◯月◯日は?」とアトランダムに質問するのだが、よどむ事なくその日の朝から夜までの天気を答える。
過去の記録と照らし合わせると全て正しいという。
職業は庭師だったか郵便配達夫だったか、まだ20代のあまり豊かそうでない黒人男性だった。

「私も雷に撃たれたら、なんかすごい能力が手に入るだろうか?」
友人に言うと、死ぬ確率がほとんどなのに馬鹿な事を言うと一蹴された。
絵を描いていても陶器を創っていても自分の才能の無さが、つくづく恨めしくなってのつぶやきだったが我ながら罰当たりで情けない。
それに与えられた才能が過去の天気を把握する能力だったとしたら制作になんの助けとなるというのだ。

しかし、この夏も空を裂くような鋭い光と窓ガラスまで震わすような大音響、それに前後する大粒の雨を見ていると、太鼓ではなく天秤を手にした雷神の姿が現れて片方に芸術の才能を載せ、もう片方におまえは何を載せるつもりかと迫ってくるのだ。
はたして自分に何があるだろう、、、。
まさか「魂」を渡したら、いくら才能を得られても物を創る気力は無くなるだろう。
ならば「過去の消し去りたい記憶」は好都合と渡したとたん、今の自分の在りようが分らなくなってグラグラ崩れてしまいそうだ。
むやみに未来の「何か」を渡してしまうような賭けは怖くてなおさらできない。
過去にも未来にも関係なく、私が雷神にあげられるものといったら。

おへそじゃあ、やっぱり駄目なんだろうなあ。



2012.8.15
追分 めぐみ
 
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